シリーズ「人生の主役はあなた」最終回「“できない自分”に深い理由があるとしたら?」

こんにちは。カウンセラーのアサコです。
これまでのシリーズ4回の中では、
自分を責めないこと、
心の奥にある本当の気持ちに気づくこと、
そして身体とのつながりを通して、自分を整えることを見てきました。
それでもなお――
「頭ではわかっているのに、うまくいかない」
「気持ちを切り替えたいのに、できない」
そんな経験をすることは、誰にでもあることだと思います。
そんな時、「自分は意志が弱い」「成長できていない」と責めてしまう人も多いのではないでしょうか。
けれども、行動できないのは「とても深い理由があってのこと」という考え方もあるのです。
■ 心の中には“いくつもの私”がいる ― 内的家族システム(IFS)の視点
アメリカの心理療法家リチャード・C・シュワルツは、著書『「悪い私」はいない』の中で、
人の心にはさまざまな“パーツ(部分)”が存在するという IFS(Internal Family Systems Model:内的家族システムモデル)について説明しています。
たとえば――
・「怖くて仕方がない」と強く不安になる部分
・「もっと頑張らないといけない」と管理したり批判的に追い立てる部分
・「つらい感情から離れなければ」と気を逸らそうとする部分
これらはすべて、私たちを守ろうとしてきた存在で、 一見、厄介に感じる反応であっても、
「過去に経験した痛みを再び味わいたくない」という思いで必死に働いているかもしれないのです。
■トラウマとは、「過去の痛みが今も残っている状態」
「トラウマ」という言葉は、 過去の出来事そのものを指すのではなく、
そのときに感じた恐怖やショック、無力感などのストレスが
今も心身に残っている状態を意味します。
それは必ずしも大きな事件とは限らず、
幼少期の家庭での緊張や孤独、
十分に理解されなかった悲しみなど、
その時の自分にとって「受け止めきれなかった経験」でも起こります。
適切なケアが施されないままで、そうした痛みが残っていると、
似たような状況に出会うたびに、心の奥の“守りのパーツ”が反応してしまう。
それが、「わかっているのに動けない」理由の一つだとも考えられるのです。
■ 自分を責めずに、理解しようとすることから始める
もし、あなたが「行動できない」「繰り返してしまう」と感じているなら、
それは怠けや弱さではなく、まだ十分に癒されていない部分からのSOSかもしれません。
IFSの考え方では、そうした自分の中の内なるパーツたちを排除するのではなく、
それぞれの役割や思いを理解していくために対話を重ねていくことを大切にします。
そのプロセスを通して、 それぞれのパーツが癒され、安心を取り戻したとき、
「SELF(セルフ)」――つまり本来の自分が立ち上がってくるとされています。
このセルフには、
「好奇心」「落ち着き」「信頼」「思いやり」「創造性」「明晰さ」「勇気」「つながり」
といった資質があり、
それらに気づいていくことで、 より穏やかで幸福な感覚が広がっていくのです。
■ 「責める」から「理解する」へ
行動できないとき、続けられないとき、
自分を責める代わりに、
「この反応の奥に、私を守ろうとしている何かがあるのかもしれない」と考えてみるのはどうでしょうか。
すべての“私”を深く理解することが、
本当の意味で「人生の主役として豊かに生きていくこと」へつながっているのかもしれません。
参考文献:
リチャード・C・シュワルツ著
『「悪い私」はいない ― 内的家族システムモデル(IFS)による全体性の回復』(2024),金剛出版
